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LIPA第1期生卒業式にポール出席、リンダ他界後公の場で初のスピーチ


7月21日、ポールが提唱して設立されたポピュラー・ミュージックを中心とするリバプール総合芸術大学(LIPA=Liverpool Institute for Performing Arts)の第1回卒業式が学内のポール・マッカートニー記念講堂で行なわれ、ポールが出席した。そして、4月にリンダが他界したあと初めて公の場でスピーチをした。

イギリスの大学制度によりLIPAはリバプール・ジョン・ムーア大学のひとつの独立カレッジとなっているが、LIPAの卒業式に先立って、ジョン・ムーア大系列の全学の卒業式典がリバプール・アングリカン大聖堂で行なわれた。卒業生がひとりひとり名前を呼ばれ、学位が授与された。栄えある第1回LIPA卒業生は153名で、日本から入学した3名、音楽専攻の上岡肇、築田孝也、岩崎裕一郎も含まれている。

ジョン・ムーア大学の卒業式典終了後、12時30分から2時までLIPAの裏庭に仮設されたテントの中で、卒業生とその家族、LIPA関係者とゲストのためのレセプションが行なわれた。このあとの式典には、LIPA支援者代表であるポールの臨席も予定されていたが、「まだ公の席には出席できない」との理由で欠席することが一般のニュースで伝えられており、レセプション会場でもLIPAスタッフや卒業生たちが口々にポールの欠席を残念そうに語っていた。

2時、LIPAの卒業式のために、ゲストたちはLIPAの正面玄関からポール・マッカートニー記念講堂へ入場、セレモニーの開始を待った。講堂は満席となったが、最前列中央部だけは、ポール、メアリー(次女)、ジェイムズ(長男)と書かれた紙の置いてある席が空席のまま残されていた。

卒業生を送りだしたポール
LIPAでの卒業式は2時30分から3時30分まで。定刻になると講堂内の照明がいったん落とされた。すると、上手の出入口からLIPA理事長マーク・フェザーストーン=ウィッティに先導されて、ポール、メアリー、ジェイムズが密かに入場し着席。これに気づいたのは周辺のわずかなゲストだけだった。ポールはダーク・グレーのシングルのスーツを着て、白い襟付きシャツのボタンを上までとめ、ノー・ネクタイ、コンバースの黒と白のスニーカーという姿だった。
ポールの臨席はマスコミの攻勢を避けるため極秘にされていたということがのちに判明。入学式とは違って、プレス招待者はなく、入場時は出席者全員がカメラを預けねばならなかった。

ポールの着席後、ステージの幕が上がると、卒業生全員が雛壇に着席していて、来賓席と対面する。色とりどりのライトが交錯して卒業生を浮かびあがらせる。そのとき何人かの卒業生が最前列のポールに初めて気づいたようすだった。
スクリーンが降りてきて、卒業生が制作したビデオが上映された。LIPAの歩みをふりかえるもので、建設中のキャンパスにヘルメットをかぶって訪れたポール、入学式、学生たちが学ぶさまざまな風景が、約7分にわたって回想風に流れる。

ビデオが終わると、まずLIPA名誉理事長アントニー・フィールドがあいさつ。そして万雷の拍手のなか、ポールが登壇して、祝辞を贈った。続いてLIPA理事長があいさつする。
ポールはとてもやせたという印象だったが、6月のリンダの追悼礼拝で見せた表情よりは元気をとり戻しつつあるようだった。しかし、スピーチでリンダのことにふれると、LIPAの卒業生を送り出す感慨とあいまって少し言葉につまっていた。

3人の祝辞のあと、ステージ上最前列の卒業生男女8名が立ちあがり、‘Your Children’を合唱した。「子どもは親の持ちものではない。未来からの預かりもの。親の思想を押しつけてはいけない。むしろ、子どもたちから学ぶことがたいせつだ。彼らは未来に生きるのだから。我々は未来の世界ではもはや生きてはいない」というイギリスの昔からの詩に曲をつけた歌で、シンプルで美しいコーラスだった。

ここでポールがふたたび登壇した。今度は、卒業生全員が順番にポールのもとに歩み寄り、記念のLIPAのピンをポールが手渡す。ポールは握手をしながらひとりひとりに語りかけ、学生も一言ずつ感謝の言葉を述べて受け取り、ステージを去っていく。卒業生の握手のしぐさや、言葉を交わすようすはみな個性的で、ユーモラスなしぐさの学生、ポールのほおにキスをする女子学生、感激で涙する学生、逆にポールを励ますような学生などなど。感動的でとてもほほえましい光景が延々と続いた。ステージに卒業生がいなくなると、大きな拍手のなか、ポールが退場し、記念すべき第1回の卒業式は終了した。

ポール、それにジョージも通っていた歴史ある学校リバプール・インスティチュートは、1985年に閉校となったが、ポールの呼びかけで芸術大学として再建され、LIPAは1996年1月に正式に開校した。
今回の卒業生の進路では、アメリカMTVが新番組のためにひとりの学生(21歳)と100万ポンドで契約。彼のキャラクターを生かした番組を制作するとのことだ。

ポールの祝辞(要旨)
この3か月間、以前からあった予定はすべてキャンセルしてきました。でも、このたいせつな機会だけは、どんなことがあっても出席したいと思っていました。いつものように、前もって原稿を用意していないので、この場の気持ちを表したいと思います。
この建物は、過去においても大きな夢をはぐくんできた場所です。自分が出た学校だから、懐かしい気持ちもあって、この建物が朽ちはてていくのを何とかしなければいけないと思っていました。かつてこの建物の中では、とてもいいことがたくさんありました。もちろん悪いことも(笑)。
君たちは、ここを人生の飛び石のひとつだと考えればいいでしょう。
(LIPAが)ここまで来るのには、いろいろな困難がありました。金銭的な問題、建物の再建工事という物理的な問題、それに、なにをどうやって教えるかという問題。実は、私は多くの友人から何度も忠告されました。ポップ音楽やロックなんか教えるものではないと。でも、ここでの結果には目を見はるものがあると、はっきり言えます。
リンダの追悼礼拝での君たちの合唱や演奏はすばらしかった。私たちの大勢の友人の前で、あんなにすばらしく、堂々とプロフェッショナルに、感動的にやれるのはたいしたものです。なによりも、私と参加者みんなに希望を与えてくれました。リンダがそれを見守って、きっとほほえんでくれていると思うと…(声をつまらせる)。(気をとりなおして明るく)僕としたことが、この話になるたびにいつも泣きだしそうになる。
とにかく、みんなが一生懸命がんばってこれほどの成果をあげたのです。卒業して、実社会に出て、自分が望む仕事を求めることになると思いますが、君たちの上には無限のチャンスがあるでしょう。ハッピーで、調和のとれた人生を送ってほしい。
友人がかつて僕に言ったように、僕も君たちに言いたい。「君たちも僕がどこに住んでいるか知っているね。だから、近くに来る機会があれば、決して立ち寄っちゃだめだよ!」(爆笑と大きな拍手)


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